今回は明るい話題にしようと思ってたのですが、トランプ当選でそんな気分は吹き飛んでしまいました。ただ、逃げ恥のガッキーの恋ダンスで元気をとり戻したのでペンを取る(?)ことが出来た次第です。ちなみにこのドラマの主人公はプログラマなのですが、この人が他の人のプログラムを見て即座に「ここのループはこうして、、、」などという指示はまずあり得ないですし、こういう指示をあのテンポで本当に的確に出していたらあの人は間違いなくサイボーグです。
さて、人工知能ネタは今回でひとまず最後なのです。最近は、人工知能同士で暗号をやり取りする事に成功したという話題がありました。暗号は軍事作戦に必須の技術なので、またもう一歩ターミネーターの世界に近づいたと言えます。
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なお暗号化ですが、量子コンピューターが実用化されたら現在の暗号化は全て簡単に解除されてしまうそうです。現時点での暗号化の安全基準は、現存するコンピューターでアタックしても何億年もかかるから解除されないという事になっています。つまり今の水準を大きく上回ると言われている量子コンピューターを使えば、この安全神話は崩れ去ってしまいます。
その段階では人工知能に新しい暗号化を作ってもらう事になるでしょう。こんな事、本当に出来るのでしょうか?このコラムで何度か紹介しているAlphaGOをどうやって鍛えたかを知ると、たぶん出来てしまうのだろうなというのが実感です。
開発者はアマチュアによる碁の棋譜をAlphaGOに見せて、まずは碁のルールを覚えさせました。この方法で作った複数のAI同士を何万回も戦わせます。この過程でAIは学習を繰り返し、自ら強くなっていきます。当然人間ではないので疲れませんし、Googleにある何千台ものサーバーを使って学習するので、普通の人間では不可能な量の経験を積むことが出来ます。
なお面白いことに、AlphaGoには人間の専売特許と思われた勘のようなものも獲得している節があります。イ・セドルさんとの対決ではある局面で、プロの棋士でも1万分の1しか選ばないと分っている手をあえて打ったそうです。五番勝負で二連敗していたセドルさんは、この手に非常に動揺し、そのショックから立ち直れないままに破れました。いわゆる技術開発にも勘のようなものをキッカケに問題を解決する事が多いので、これを獲得したというのは非常に大きな飛躍です。
しかし既に負けが決まった第四局で、セドルさんは一矢報います。彼の打った白78手にAlpha GOは文字通り混乱しました。何故ならこのセドルさんの打った手もAlpha GOの計算では一万分の一の手だった為です。セドルさん自信もこの戦いの後、自分は強くなったという実感があると言っています。ひょっとしたら人工知能を人間の能力を高める為に利用出来るかもしれません。その結果、人間がAIを再び超えるか、やはり負けてしまうかの答えは出ていません。
AlphaGOの開発者はセドルさんとの対決が決まった後も、セドルさんの棋譜で学習させる事はしませんでした。理屈的にはその方が勝ちやすいにも関わらずです。これは彼らの目的が碁に勝つ事ではなく、その方法論がどこまで行けるかを調べる為だからです。
人工知能は与えられたものを学習するだけで、その能力においては人間を超える事は証明されています。新しい暗号化技術の開発などは任せてしまっていいはずで、これによる技術の進歩の恩恵に預る事が出来ます。一方で、Alpha GOはその生みの親のような発想は現時点では出来ません。AIはいわゆるVisionaryでは無いという事です。この部分は人間の果たすべき役割だと思います。
Written by plsplsme